日別アーカイブ: 2022年12月3日

「リスキリング」と言いますが


 リスキリングという言葉は、まだあまり知られていないようです。自民党の岸田政権が突如言い出した言葉なので、知れ渡っていないのは当然と言えば当然です。
 似たような内容としては「生涯教育」「社会人教育」「職業訓練」、と、過去に何度も出てきています。

 私は、用語の選定は別として、社会人になってからの学び直しは必要だし、政府がそれを支援するという理念自体は賛成です。
 しかし、自民党にそれができますか?
 という疑念を投げかけざるを得ません。

 3~4年くらい前に氷河期世代を支援するという話が出た際にも、自民党サイドからは職業訓練を柱とすると言う話が持ち出されて、「それじゃない!!!」と猛反発を買った経緯があります。
 何故反感を買ったかというと、氷河期世代が「報われてない」のは、何も教育の機会がなくてスキルが低いからではなく、むしろ大学や専門学校を出てそれなりに学やスキルがあるのにそれに見合った報酬や待遇を得られていない、という不満があるからです。(※ここ、敢えて現在形にしました。)

 さらに言えば、その職業訓練支援の内容も、受講者を支援すると言うよりは教育事業者や派遣業者に新しいビジネスチャンスを与えるものでしかなかった、というのもあります。
 民間に任せれば民間の需要をくんだ訓練メニューを考えてくれるだろうという思惑があったようですが、ぶっちゃけ実態を知らない者の浅はかな考えです。教育業者は現場の需要なんか全くわかっていません。そして自民党は、業者丸投げです。

 例えばITの現場でいえば、「SEが足りない」というのは20年前から言われていますし、これは事実です。ところが、そこで人を育てようという事を外の人に言うと、国でも民間でも「プログラミング教育」をはじめ出すんですね。
 プログラミング教育で養成されるのは、「プログラマー」です。プログラマーも不足しているとは言われますが、高い給料出して人が集まらないほど不足しているわけではありません。「プログラマー」で求人出して人が来ないならそれは単に給料が低いからです。
 慢性的に不足しているのは「SE(システムエンジニア)」です。顧客の要求を理解して、出来ること出来ないことを峻別して、システムを設計出来る人。あるいは、プログラマーを管理する人。プログラマーの代わりに顧客と折衝する人。日本の場合、こういう人がずっと足りていません。
 もちろん、SEには基礎的なプログラミングの知識が必要です。でも、それだけでは事足りません。というか、その程度の話ならコンピュータ系の学科出た新人でも十分知識あります。(そしてそれをやらせて大失敗したのが2000年代初頭です。)
 今社会人教育として必要な教育内容は、そこではないんですね。

 専門に関わる話なのでつい長々と書いてしまいましたが。自民党政権はもう10年もこういう「違う、そうじゃない」ということばっかやらかして、時間と予算の無駄使いを繰り返しているんです。
 こういうの、何もITの分野に限った話ではないと思います。

 今回もまた、「リスキリング」と看板だけかけ直していますが、具体的に何のスキルをReするおつもりですか? と言いたくなります。
 しかも、もう参院選から5ヶ月経ちますよ? 何でまだ具体的な中身がないんですか。

 では学び直しを実現するには、代わりに何をすればよいか。
 必要なのは、「時間」「お金」「調整者」です。

 時間。どんな訓練メニューを用意したって、受講者が時間を確保できなかったら話になりません。8時間労働という原則が守られていれば時間の確保は難しくないのでしょうが、それが出来ていないのが日本の現実です。
 ちなみに、4年前に成立した「働き方改革法」はまだ抜け穴があって、それを修正するよう付帯決議で決められた見直しの時期に来ているんですが、そういう話いっさいありません。

 お金。これは出し方はいろいろありますが、1つだけ間違えてはいけないのは「支援すべきは受講者(労働者)であって、業者ではない」ということです。

 最後に、調整者。現場と教育機関を橋渡しする人が必要です。
 そういうのも民間というか有資格者にやらせればいい、と言うのも一つの考えですが、ただそれをやって失敗し続けてきたのがこの30年です。ある程度行政の力を活用するのが賢いやり方です。
 ただ行政は行政で、今とんでもない人手不足ですし、ところによっては実務を低待遇の非正規職員が担っているという役所もあります。これを是正しないと話にならない。
 
 はてさて。このお金・時間・調整者の3つ、自民党政権が用意できるんでしょうか? 私は無理だと思います。
 それらを用意できる政権に交代させる。そういう時期に来ているのです。