玉城デニーは何故翁長雄志の後継者となり得るか


 全米オープンテニスで、日本人の大坂なおみが優勝した。利権と搾取の臭いしかしないTOKYO2020と違い、こういうニュースは素直に嬉しいものである。
 ところで、大坂なおみは、日本人とハイチ人のハーフだそうである。まあ、「それがどうかしたか」と言われたらそれまでの話ではあるが、一昔前だとすぐ右翼勢力がこういう事を揶揄して誹謗中傷した時代があったのである。

 日本も随分と変わったものである。徐々に多様性を受け入れる社会になってきた。

 さて。本題に入ろう。

 かつてアメリカ合衆国も国家承認した独立国家であった琉球王国、現在の日本国沖縄県の話である。
 4年前歴史的な保革共闘によって当選した翁長雄志氏が、癌によって急逝した。(※今思うと、もしかしたら選挙に出る時点で既に見つかっていたのかもしれないが、さすがに憶測の域を出ない。)
 「イデオロギーよりアイデンティティー」というスローガンの元、大田革新県政ですら苦労した連立与党のまとめ上げをうまくやり、経済政策では基本路線としては仲井眞県政のそれを引き継ぎつつ、「辺野古移設」の問題では、「沖縄が基地をくれと言ったことは一度もない」という「沖縄県民のアイデンティティー」を貫き、死の間際で辺野古沖埋立許可の撤回表明を出して、そして亡くなった。
 劇的な、歴史に残る最後であった。いずれ文才のある人間が、彼の生涯を詳細に綴ることであろう。

 さて。翁長知事が亡くなったことで、11月に予定されていた知事選は、急遽9月に繰り上げされた。
このとき、翁長県政与党が候補者擁立作業をしている途中で、「翁長知事は後継者として、呉屋守將・金秀グループ会長と、玉城デニー・衆院議員(自由党幹事長)の2名が指名された」との情報が飛び込んできて、選考作業は一時混乱した。

 正直な話、荒野草途伸も驚天動地であった。「なんで、デニー?」というのが、偽らざる正直な感想であった。

 玉城デニーという人物というか政治家に問題は無いので、彼が候補者になる事自体はかまわない。だが、何故翁長雄志は玉城デニーを後継者の1人に加えたのか。
 それがずっと謎だった。

 その答えが、最近になってようやく見えてきた。
 名前からわかるとおり、玉城デニーは、ハーフである。アメリカ人(おそらく米軍人)の父親と日本人の母親の間に生まれた人である。
 いわゆる”アメラジアン”である。

 沖縄では、全く珍しい存在では無い。もちろん、これまでの歴史の過程で、全く差別や偏見が無かったわけではない。だが、決して少数派でも無い。荒野草途伸ぐらいの年代だと、アメラジアンと日本人(沖縄県民)の間に生まれた、いわゆる「クォーター」の人もいっぱいいて、明らかにそちらの血が入っているなという人は、琉大でも仕事先でも、そこら中で見かけた。

 しかし、だからなんだという話でもある。気にかけるのは、よくわかっていない本土から琉大に入ってきて遊び回っている類の奴ぐらいなもんだった。

 沖縄の人民が米軍基地をくれと言ったことは、過去に一度もない。
 だが、結果として生まれてきた子供を差別する理由はないし、そんなことはしない。それが沖縄という土地なのだ。少なくとも現在の沖縄は。

 さらに、蛇足かもしれないが、今の沖縄にいる外国人はアメリカ人に限らない。台湾をはじめとして、中国、南アフリカ、マレーシア、オランダ、ロシア、ポーランド、様々な国の人が沖縄にいる。(※これらの国名は、実際に荒野草途伸がこれまでに沖縄で遭遇した外国人の国籍で有り、実数に比例したものでは無いことは注記しておく。
 特にロシアからは、日光浴リゾート地として沖縄は大人気で、そのまま永住してしまう者も少なくない。
 そして、わざわざ言うまでもないかもしれないが、日本国内の沖縄県外から沖縄に移住する人、いわゆる「しまないちゃー」も年々増加している。

 要するに、沖縄は世界有数の国際都市なのである。

 日本領ではあるが、「日本」という狭い枠組みにとらわれて収まりきるような土地では無いのだ。

 そんな国際都市沖縄を束ねる立場である沖縄県知事として、誰がふさわしいか。
 これはもう本当に推測に過ぎないが、翁長雄志の頭に浮かんだのは、経済界をまとめられる呉屋守將か、出自からして全ての沖縄在住者の象徴となり得る玉城デニーか、ということだったのかもしれない。

 そして、呉屋守將が辞退したため、知事候補は玉城デニーに決まった。

 繰り返しになるが、翁長雄志は「イデオロギーよりアイデンティティー」というスローガンを旗印に掲げていた。
 だがこれまでは、「日本やアメリカから自立した沖縄」という意味での、反基地・反米軍・反東京政府という意味で、沖縄のアイデンティティーが維持出来ていた、というのが現実だろう。

 だが、これから先もこのままで「反○○」だけでアイデンティティーが維持出来るはずが無い。新しいアイデンティティーの象徴が必要なのだ。
 その意味で、「国際都市沖縄」という新時代の沖縄の求心力となり得る玉城デニーは、新しい沖縄のアイデンティティーの象徴となり得るのだ。

 旧来からの沖縄のアイデンティティーを守った翁長雄志から、新時代の沖縄のアイデンティティーの象徴たる玉城デニーへ、知事が交代する。これは、新旧の沖縄のアイデンティティーの引き継ぎなのである。

 これが、玉城デニーが翁長雄志の後継足りうる理由である。

 無論、日本は民主国家で有り、知事は公選制である。日本政府を牛耳る巨大政党自民党は、候補者としてサッキーマウスの愛称で本土でも有名になった宜野湾市長を擁立した。

 選挙は予断を許さない。
 沖縄は新時代のアイデンティティーを確立出来るのか。
 それとも、ただの日本の南端の1弱小県として終わってしまうのか。

 その選択は、沖縄の有権者に委ねられている。

 敢えて追記すると、愛知県出身の荒野草途伸が今最も懸念しているのは、今知事選の選挙権を持っている県外出身者の沖縄県民が、この話を理解出来るかどうかだ。そして今、彼らの票数は決して無視はできない。


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