7/3付けの八重山旅行記でも書いたように、台湾絡みの問題をちょっと考えてみる。
今はもう事実上解決したことになっているが、つい先月まで日本と台湾の関係は少なくとも政治的には一触即発で戦争状態になる状態にあった。
そもそもの事の発端は、6/10に日本領内である尖閣諸島で海上保安庁の巡視船が警戒活動をしていたところ誤って近くで操業していた台湾の漁船にぶつかってしまった。その際に海上保安庁側は、船長を拘束し、船も持って行ってしまった、ということに端を発する。この行為自体は確かにちょっと問題があったし、それについては最終的に海上保安庁側も謝罪している。
ところが。これに関し尖閣諸島を自国の領土とする台湾が過剰反応した。どう反応したかというと、国家のナンバー2に当たる行政院長が、国会での答弁で「日本との開戦も辞さない」という発言をしたのである。
(7/3付けの文書では私はこの発言を馬英九 国家主席のものと書いてしまいましたが、これは間違いでした。済みません。)
参考:「戦争も排除せず」尖閣問題で台湾行政院長(msn産経))
http://sankei.jp.msn.com/world/china/080613/chn0806132028016-n1.htm
尖閣諸島を巡っては、以前から台湾でも確かに自国の領土という主張を元に日本の取り締まり活動に対して抗議活動などが行われてはいた。(最も、尖閣諸島問題初期に於いて台湾国民自体はそれほど活発な抗議活動は行ってはおらず、香港あたりの「民主化」活動家が煽って現在のような状況にしてくれたようだが)。が、今回のこの発言はあまりにも物騒すぎる。何しろ、「戦争する」と言ったのだ。しかも、そこらのゴロツキ活動家などではなく、国家のナンバー2が。いかな国会議員の誘導尋問によるものとはいえ、これは穏やかではない。
ちなみに、旧ソ連や中国、北朝鮮ですらも、国家の重鎮が表舞台で「日本と戦争する」などと発言した記録はない。当たり前だ。いかに仮想敵国といえども、国家の首脳陣が軽々しく戦争の可能性を口にしていいものではない。戦争は遊びではない。国家と国民の存亡がかかった滅ぼし合いなのだから。
逆に言えば、もしそれが口に上ったなら、その国は日本と戦争する気満々ですよと捉えなければならない。
つまりは。今の台湾は、場合によっては日本と戦争する意志が十分にあると見なさなければならない。北朝鮮以上に、日本にとって危険な存在なのだ。
実は、台湾との戦争の危機は、今回に始まったことではない。1972年に沖縄が米軍支配から解放されて日本の領土として復帰したとき、当時の国民党独裁政権はこれを阻止しようと戦争準備を行い、実際出兵寸前にまで至ったのである。ただこれは、国民党独裁政権のバックボーンであったアメリカの圧力によって中断されたが、日本領である沖縄県が国民党政府軍によって攻撃にさらされる危険性は十分にあったのだ。
さて。話を現在に戻すと、台湾の現政権は、今年の総統選で親日の民進党から当時の独裁政党であった国民党に戻っている。
ここで改めて念押しをしておくと、国民党(中華民国国民党)は、決して親日などではない。8年間にわたる民進党政権のおかげで、日本人の間にはすっかり「台湾は親日」というイメージが染みついていて、その所為で国民党までもが親日であるかのように誤解している人もいるようだが、これは全くの間違いである。前述のように、独裁時代には日本への出兵を企てるような、むしろ危険な反日政党であるとすら言えよう。
以上を考えると、台湾と日本との戦争勃発は、決して夢想語りなどではない。国力が疲弊し戦争遂行能力など無いに等しい北朝鮮などより、よほど危険性は高いと言える。
以上を考えると、日本政府並びに日本の世論は、台湾首相の発言にもっと過激に反応してもよかった。「戦争だと?ふざけんな!」ぐらいの発言があってもよかったとは思う。ただ、実際のところ政府にも世論一般にも、そのような意見はあまり見られなかった。自分自身もそうなのだが、あまりにも過激すぎる発言故に「少し落ち着いて様子を見よう」という空気が大勢だったのだと思う。結果としてこの問題が穏便に解決したので、まあこれはこれで正解だったのかなと思う。
しかし、あきれ果てるのはクソウヨ/ネットウヨどもの二枚舌っぷりである。
北朝鮮がミサイル実験を行ったとき、朝日新聞が社説で冷静な対応を呼びかけたところ、彼らはこれに対して猛烈なバッシングを加えた。ところが、より戦争の危険が大きかったこの問題に関して、彼らは一転して「冷静な対応を」などとのうのうとほざいているのだ。いったいこの豹変ぶりは何なんだろうか。
さらに言えば、彼らの発言の中には看過できない内容がある。つまり、「台湾と戦争したって、勝てるから問題無い」というものである。
確かに、単純な軍事力の比較で言えば、台湾海軍と海上自衛隊の戦力差は歴然としている。総力戦に持ち込めば最終的には勝てるだろう。「戦争には」。
だが。彼らクソウヨの節穴のような目には全く見えていない事柄がある。それは、「台湾と戦争になったら、沖縄県、少なくとも八重山地区は間違いなく戦場になる」ということである。
少し調べればわかることであるが、日本の最西端である与那国島から台湾まではわずか110Kmあまり。石垣島よりも近い。その石垣島も、台湾までの距離は300Km弱で、400Km以上離れた沖縄本島よりも近い。
そして、この両島には自衛隊・米軍ともに軍事基地が一切無い。石垣島には海上保安庁の石垣海上保安部があるが、海上保安庁は所詮は海上警察である。いくら何でも軍艦、しかも対中国戦を想定して十分な訓練をしている台湾海軍に勝てるような装備など持ち合わせているはずがない。そして、与那国島に至っては海上保安庁の基地すらないのだ。
これら八重山諸島から最も近い自衛隊基地は、宮古島にある航空自衛隊の警戒基地であるが、あくまで緊急発進用の戦闘機を配備しているのみで、ここの装備だけでは制空権を制することすらままならないし、ましてや台湾軍の上陸を阻止するなど到底無理な話である。
台湾軍を牽制するにはやはり海上自衛隊の艦船が必要であるが、八重山諸島から最も近い海上自衛隊の基地は、沖縄本島の与勝半島にある。与那国島からは600Km近くも離れている。
ちなみにこの与勝半島には米海軍のホワイトビーチ基地があるが、米軍はこと台湾戦に関しては全く動かないと見るべきだろう。なぜなら台湾はアメリカにとって日本と同様の軍事同盟国であり、台湾の軍備はそのほとんどがアメリカからの供与によるものですらあるからだ。そもそも、沖縄の米軍は日本を守ることを前提に配備されていない。
以上を考え合わせると、台湾が奇襲作戦で侵攻してきた場合、まず間違いなく与那国島は占領されるだろう。下手をすれば西表・石垣も占領され、宮古沖で決戦ともなりかねない。最終的に台湾軍を撃退できたとしても、これらの島々は戦場になってしまう事は間違いないのだ。
先島諸島が戦場になる。米軍は支援してくれない。彼らクソウヨどもの頭には、こういった事は頭にあるのだろうか。無いのなら無知不見識のそしりは免れない。
それとも、わかってて敢えてこういうことを言っているのだろうか?
北朝鮮がミサイル実験をしたときは、東京にミサイルが飛んでくる危険性があった。だから彼らは大騒ぎした。だが、台湾との戦争で沖縄が占領されることはあっても、東京や福岡が占領されることもミサイルが飛んでくる危険性もない。だから彼らは平気で言うのだろうか。台湾と戦争したって勝てる、と。
「沖 縄 な ん て ど う で も い い」。
これが彼らクソウヨの本音なのだ。
彼らクソウヨは、沖縄の独立には強硬に反対する。それは、沖縄が独立すればそこが中国の勢力圏化に入ってしまい日本の権益が失われるからだという。その主張には、沖縄県民の利益不利益のことなど、一切考慮に入っていない。彼らクソウヨのエゴイズムしか見えてこないのだ。だからこそ、沖縄県民は「独立」という最終カードを手放そうとしないのだが、彼らはどうやらそれすらも理解できないらしい。
彼らのいう日本の国境は、本当はどこにあるのだろうか? そんな事を疑いたくもなる。
こんなクズどもが国士を気取りネットを中心に政界にまでのさばっている。そして反戦左翼カブレにまでこんな事を指摘されてしまう。こんな国の現状を、憂えずにいられようか。
-----
「沖縄の国境はどこだ」への10件のフィードバック
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。
基本認識の部分で、あなたはまちがっていると思う。たしかに台湾の劉兆玄行政院長の発言は、不穏当なものだった。しかし、その発言に日本人が過剰反応しなかったのは、そのニュースが、その背景や市民レベルの背景とともに全面的に日本国内に公開されているからですよ。根底には、台湾が日本とおなじ自由な民主主義国家だという、安心感がある。そういう国の、一人の浮き上がった不規則発言と、民意との乖離を読み取れるだけの余裕が、民主主義同士の外交のなかにはあるわけだ。
なにが起きているのか、よくわからない、専制独裁の北朝鮮とのちがいです。ひとりの独裁者の狂気で、ホントに戦争がはじまってしまうかもしれない恐怖です。あなたの発言は、民主主義をとなえながら、民主主義が理解できていないご意見だと思う。
非常に残念ですが、認識が間違っているのはあなたの方だと言わざるを得ません。
まず、私は発言に日本人が過剰反応しなかったことを責めているのではありません。むしろ、冷静な対応が出来た日本人は褒め称えられるべきだと思います。「戦争も辞さない」なんて言われて冷静に受け流せる国、いい意味で平和ボケなのかもしれません。
次に、「自由で民主主義な国家」というものに対する過信です。民意を無視して指導者が戦争を決断してしまうこともあり得ます。アメリカで世論がイラク撤退を求めているにもかかわらず指導者がそれを無視し続けていることなど、まさに好例でしょう。また、民意が戦争を求めることもあります。今の台湾でそれが多数派だとは思いませんが、しかし国会でこういう発言が出るのは「日本と戦争したい」という勢力がいるからと考えるべきでしょう。
無論、だからと言って煽情的な行動をとる必要はないですし、してはいけません。それは、どこの国が相手であっても同じ事なのです。大切なのは、「戦争が起きて利益を得るのは誰か」「戦場になって被害を被るのはどこの誰か」。この2点ではないですか?
元記事では「あきれ果てるのはクソウヨ/ネットウヨどもの二枚舌っぷりである」コメントでは「私は日本人が過剰反応しなかったことを責めているのではありません」と、あなたの発言こそがみごとな〝二枚舌〟に読めるのですが?
基本的な事実誤認だけ正させていただきます。
> 馬英九 国家主席
台湾(まあ「中華民国」と言ってもいいのですが)には国家主席などという中共のような役職はありません。
総統です。(中国国民党主席というのもありますが、それは馬英九の過去の経歴です)
そして、件の「開戦も辞さず」発言ですが、確かに劉行政院長の発言ではあるものの、
ベースとなっているのは、過去に馬英九が「戦争も辞さない」と発言したというものです。
6月の立法院でのやりとりとしては
立法委員「過去に総統は『戦争も辞さない』と言っているが、総統が開戦を指示したらそうなるのか」
劉行政院長「両国間の争いが戦争に発展するというのは、あくまで最後の最後の手段だ」
立法委員「それは、戦争の可能性も排除しないということか?」
劉行政院長「そうだ」
というもので、劉行政院長もこの後に「馬英九総統の当時の発言は、平和的な手段が全て断たれた後、
最後の最後になって主権を守るためには『一戦も辞さない』という考えを述べたものだと理解している」
と言っており、「今回の一件で台湾が日本との戦争も辞さない」というのはいささか鵜呑みにしすぎではないでしょうか。
それとも、わかってて敢えてこういうことを言っているのでしょうか?
>罵愚 さん
どうやらあなたは、私が「日本人は今回の件で過剰反応するべきだった」と主張していると、誤解されているのでしょうか? もしそうなのでしたら、私の文章をもう一度精読してください。そうでないことはよく読めばわかるかと思います。
>名無しさん
ここは2ちゃんねるではないので出来れば名無しは避けていただきたいところですが…。まあ今回はいいでしょう。
「国家主席」という用語の用法については、これは完全に私の誤用ですね。国家元首と取り違えていました。最近記憶力も弱っていてダメですね。
あと、開戦発言の件は、ご指摘の経緯は承知した上で書いています。そのうえで、隣国のこんな発言はミサイル実験並みに危ないという認識を持って欲しくて、この文章を書いています。
例えば、アメリカやフランスの大統領が、あらゆる交渉手段を尽くした後日本と戦争をするかと問われて、そうだと答えるでしょうか? ロシアや中国、韓国、フィリピンでも良いです。そんなこと口が裂けても言わないはずです。戦力差云々ではなく、外交的常識として。
残念ながら、台湾の現政権である国民党政権には、その辺の常識が備わっていないようです。民主主義国家を担う集団としては、あまりにも未熟と言わざるを得ません。だから私は、今の台湾は北朝鮮並みに危険な存在になってしまったと考えています。
三枚目の舌ベラもあったのか(笑)
>罵愚 さん
あなたが何を言っているのかよくわかりませんが、私の文章はちゃんと再読していただけましたか?
正直、こんなレベルの低いやりとりは想定してなかったんですけどね・・・。もっと実のある、例えば「ではあなたは台湾と日本が危機になったときに備えてどうすべきと考えるのか」とか、そういう所から切り込んできて欲しかったんですけどねえ。
はあ。
沖縄振興策を斬ってみる~1.沖縄科学技術大学院大学~
自分のBLOGや個人ページ全体が、日本社会や沖縄社会に与える影響というのはどのくらいのものなのだろうか。…いやまあ、アクセス数を見れば一目瞭然だとは思うのだが、以前与那国島の防衛問題について書いた(参照)ら半年もしないうちに与那国町で自衛隊誘致運動が起きてしまったことを考えると、つい勘違いをしたくなってしまう。