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残業規制で野党は対案を


残業上限「月100時間」 政労使合意 これは「過労死の合法化」だ(毎日 有料記事)

 この記事を読むまでもなく、既に多くの人が知っているであろう「残業規制」の件である。当ブログでも今月頭に記事にしている

 「100時間」という(わかりやすい)数字ばかりが注目されているが、もっと深刻なのは、運輸業や研究開発職(システム開発、いわゆるSEを含む)が政府案では「適用除外」(=100時間規制すらない、現状と何も変わらない)となっていることである。

 そしてどの業種でも当てはまる「サービス残業」という奴は勝手に死んだだけですシステムは、罰則が付くとはいっても企業名の公表程度の軽いものに留まり、実質そのまま放置である。営業停止処分にまで踏み込む強さがなければ根絶などできない。

 「今より良くなるからいいじゃないか」等と寝言を言っている人間もいるようだが、今より良くなどならないのである。茶番ですらない。

  1.  適用除外の例外は無し
  2. 営業停止処分も含む強い罰則
  3. それを担保する為の労基・労働局人員の強化。

 野党はこれらの内容を軸に、対案を出すべきである。アベ政権与党の現状把握能力の無さ=政権担当能力の無さはもう多くのまともな国民は理解し、十分に知らしめられている。
 次は、野党の実力を示すときだ。


共謀罪(準備罪)の事例をもう一つ


 今日3/21、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。いわゆる「共謀罪」と呼ばれる、準備行為を処罰する規定が含まれている。
(毎日記事)
http://mainichi.jp/articles/20170321/k00/00e/010/140000c
(日経記事)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS21H09_R20C17A3000000/?dg=1

 この準備行為の取り締まり対象には著作権侵害が含まれていることから、今月に入ってにわかにネット上でも騒ぎになり始めている。
 3/1時点で、自分もTwitterで同人(二次創作)活動に絡んでこのような指摘をしている。

 そもそも「共謀罪」(準備罪)は犯罪そのものでなく「準備行為」を取り締まる事自体無理筋なのだが、どうもここを歪曲して話す”有識者”が後を絶たない。一方で、反対派も何が問題なのかきちんと理解せずに見当外れな事を言っている人が散見される。

 そこで、改めて著作権絡みで、もっと身近な例で「準備行為を取り締まる」ということがどういう事かを解説したい。

 そもそも準備罪の適用対象に著作権が入った理由に海賊版対策がある。例えばアニメの海賊版を作成するためには、方法はいろいろあるだろうが、手段の一つとして深夜アニメをレコーダーで録画するという行為があるだろう。つまり、アニメの録画は海賊版作成の準備行為になりうる。
 しかし、録画自体は、言うまでもなく現行著作権法では認められた行為である。そして、それを個人レベルで鑑賞するのも合法である。不特定多数を集めて鑑賞会を開くのは法に抵触する恐れがあるが、顔見知りの数名で鑑賞する分には個人利用の範囲内と解される。

 ところが、この顔見知りの数名というのが、共謀罪では仇になる。今回の準備罪の構成要件は、「組織的犯罪集団と認定された集団の構成要員が計画的犯罪の準備行為をする」となっている。テロリズム集団等と言っているが、テロ集団とは限らない。むしろテロ以外の経済犯に事前準備罪を適用するのが今回の法改正の趣旨である。
 しかも、認定がどの段階で行われるのかは、よくわからない。

 下の図は、この状況を図解したものである。

 あるオタク集団がいるとする。大学のアニメサークルでも、オフ会で知り合ったオタ集団でもいい。深夜アニメについてネット上で談義しているうちに、海賊版とか違法ダウンロードの話になった。そういうのってどういう仕組みで収益を得るかという話をしているのかという話をした後で、メンバーの誰かが深夜アニメを録画した。
 さて、この録画したものがどういう経緯を辿るだろうか。もしかしたらこれをマスターに海賊版を作ってしまうかもしれない。そんなことはせず普通に鑑賞するだけかもしれない。そんなことは、事前準備の段階では、わかるわけが無いのである。

 「下見と花見」と例えられるのと、同じである。爆発物製造のように、犯罪行為と準備行為が1対1の因果関係にあるならいざ知らず、(少なくとも著作権侵害では)合法行為と違法行為で準備行為は丸かぶりで、準備と結果は1対多なのである。著作権侵害に限らず、準備行為が1対1で犯罪に結びつく例など、希少であろう。
 結果に合法と違法を内包した準備行為を取り締まるなど、刑法に量子論でも導入する気か、と小1時間説教したくなる話である。

 実際に犯罪が行われてから処罰する、というのが刑法の鉄則、ということは日弁連からも指摘されている。

 さらに、もう一つ問題がある。前述のように、準備罪が成立するためには組織的犯罪集団の認定が必要なのだが、その認定基準は全く以て不明確である。大学のアニメサークルや、オフ会で知り合ったオタ集団、合同同人誌の企画グループ、こういった集団がある日突然「著作権を侵害する組織的犯罪集団」と認定される可能性がある。
 むしろこっちの方が深刻かもしれない。

 言うまでも無い事だが、これは何も深夜アニメに限った話では無く、ドラマや音楽番組でも同じ事が言える。オタクは汚らわしいから取り締まって当然とか言い出す自民党信者が絶対出てくるだろうから、あらかじめ釘を刺しておく。

 そして、著作権絡みだけ除外すれば良いという話でも無い。そもそも論として、準備行為を取り締まることが無理筋なのである。
 妥協して利益引き出し云々言ってる手合いは、事の本質を全く理解していない阿呆としか言いようがない。

 そもそも、自民党政府が法改正の根拠と主張する国際組織犯罪防止条約は、準備行為の処罰など求めていないのである。増してや、東京五輪とは何の関係も無い。
 にも関わらずこれらを引き合いに準備罪を創設するなど、「お前らこそこれは一体何の準備行為だ」と胸倉を掴まざるを得ない。

 無論、法案に賛成する連中も同罪である。どうせこいつらは、「左翼が反対するから法案に賛成、内容は関係ない」という、そういう理屈なんだろうが。


ガタケット150参加告知


ガタケット150の参加要項が届きました。配置スペースは
H-33b
です。

新刊は、けものフレンズやらかしSS本「総受け!かばんちゃん」です。
1部200円になります。

(※とらのあな通販でも頒布しています。
また、epub版をboothにてDL頒布する予定です。)

配置エリアはKey系なんですが、既刊ほぼ鍵系なので。

新潟まで来れる方、よろしくお願いします。

<※3/21追記>
当日お品書きを掲載しておきます


規制なき残業からの生還者として


 70年ぶりの労働基準法改正、と自民党政府が胸を張る、いわゆる「残業規制」が安倍首相の仲介という形で合意した。率直に言って茶番と言うほかない。
 確かに、現状の「36協定で無制限定額働かせ放題」が「2段階上限制」になったという意味では、一歩前進ではある。だが、一歩でしかない。決して胸を張れるような内容ではない。当面の緊急措置として当然やるべき改正であり、この後半年か一年以内にさらに踏み込んだ改革が必要なのである。しかし、今回の連合と経団連の合意内容では見直し時期は「5年後を目処」となっており、緊急課題であるとの認識に欠ける。そして政府に至っては、それを手放しで自画自賛している惨状だ。

 では、今回の合意内容の何が問題なのか。私自身の経験を踏まえて列挙してみる。(ひとまず私が指摘できる範囲であり、ここに挙げる事項が全てでは無い、という事は予め申し添えておく)

・「繁忙期」の定義が従来通り企業任せのため、実質「いつだって繁忙期」が続くことになる。

 従来の労基法に基づく36協定の特例でも、残業(時間外労働)というのは本来例外規定なのである。通常期であれば1日8時間1週45時間(労使協定があればもっと短いところもある)が労働時間の上限なのである。
 しかし実態はどうか。残業のない恵まれた職場ならいつだって通常期だろうが、実際には「いつだって繁忙期」で毎月特例を適用して時間外労働をさせているのが現実では無いか。そしてその繁忙期か否かの判定は、完全に企業任せである。法令も省令もない。だからこれを理由に労基は動けないのが現状である。

 今回の合意内容でも、このルールは踏襲される。特例であっても100時間未満、とはなったが、月100時間と言ったら休出か平日深夜残業が必至になる時間量である。それが期末の1ヶ月だけ、とかならまだしも、数ヶ月にわたって続く事を認めたのが今回の政府ご自慢の法改正である。要するに、現状追認でしかない。自慢できるようなものでは決してない。
 しかも、「通常期は月45時間」という、よくわからないおまけ付きである。通常は時間外労働をさせてはいけない、というのが現行労働基準法の規定である。ここで言う通常期とは一体何か。改正どころかこれは改悪では無いのか。少なくとも、褒められた代物では無い。

・実態として勤務上限を超えていても、勤務記録自体をつけさせないいわゆる「サービス残業」への抑止策が無い。

 この「サービス残業」という言い方自体がよろしくない、というのは20年前から言われている事だが、それはひとまずさておき。

 今回の法改正で上限となった「45時間」「100時間」を超えても、勤務記録がなければ、超過勤務割増手当(いわゆる残業代)は出ない。
 自分が日立情報に派遣されていたときは、派遣元との36協定では月40時間上限だったのだが、実態としてはまるで守られていなかった。発狂して失踪寸前に陥った案件では、朝8時半から客先である大野城市役所に常駐を始め「定時」になると福岡市内の支社に戻り0時前まで開発業務、という日々が2ヶ月近く続いていた。名古屋市社会福祉協議会の案件では丸1ヶ月徹夜だった月もある。
 しかし、これらの超過勤務は40時間を超えた分は会社側の記録がない。よって、「働いていない」という扱いになり、残業代も出ない。
 当然違法なのであるが、記録がないから証拠が無いという話になる。

 マトモな労働者なら自分で勤務時間を控えておいたり、最近はその為の支援アプリも出ているのだが、それですら「セキュリティ対策」を口実に勤務時はスマホ携帯を電波の届かないロッカーにしまわせるという「対策」が取られてしまっている。

 というか、そもそもそんな自主記録を付けなければいけないこと自体がおかしい。

 今回の合意内容に、サービス残業に関することは含まれていない。政権は合意内容をそのまま踏襲すると言っているのだから、法改正にもこれは入らないだろう。
 つまり、上限規制を設けると言っても、結局は尻抜けなのである。それどころか、今までは超過勤務100時間を超えてもその分超過勤務割増手当を出していた会社も、これからは出なくなるのである。業務量自体を減らさなければ、結局は「サービス残業」ということになるだろう。
 到底褒められたものでは無い。

・インターバル規制が努力義務規定に留まり、過労死抑止策としての実態をなしていない。

 シフト勤務などで発生する「実質24時間労働」は、変形労働時間制という規定により、現状では脱法行為として合法になってしまっている。これを改善する為に、インターバル規制、即ち勤務時間と勤務時間の間に規定以上の時間間隔を置かせるという仕組みが提唱されている。
 シフト勤務でなくとも、連続した長時間勤務が過労死に繋がるとの報告があり、全業種において導入は急務である。

 しかし今回の政府ご自慢の法改正では、このインターバル規制は努力義務に留まっている。罰則がないどころか、ただの努力規定だから違法にすらならない。
 これの一体どこを誇れるのか。

・5年後の見直しを歌っているが、経営改革に5年は長すぎる。

 今回の政府ご自慢の法改正の最大の問題点がこれである、といっても過言では無い。

 今回の法改正がお話にならない状況を止める為の緊急避難措置である、という事を政府・経団連・連合ともまるで理解していない、という何よりの証左である。

 緊急避難措置であるから今回の改正労基法は可決次第即時施行されなければならない(もし即時施行しないようならそれこそ政府の怠慢である)が、経営環境が激変すると対応しきれないところもあるので激変緩和措置として妥協の産物な内容になるのは致し方ないだろう。
 だが、あくまで一時的な措置であり、直ちに次の法改正に取り組まなければならない。半年か1年、大目に見ても2年以内に行わなければならない。

 それが、5年先とはどういう事か。経営改革に5年も費やしていたら、上場企業なら株主から無能と突き上げられるだろう。
 大手企業の新入社員だって、3年経てば転職するか否かを考えるのである。その転職活動も、長時間労働で拘束されていては出来っこない。無収入に転落することを覚悟で辞めるか、過労死を目前に収入を得続けるかの博打を、5年も続けさせるつもりか。

 そしてそれを、70年来の大改革などと自画自賛する安倍自民党政権の果てしなき愚かしさ。現実に対する無理解、政権担当能力の無さを物語っている。


 過労死問題はなにも昨年始まったわけではない。25年前には既に「KAROUSI」という英単語が成立していたほどである。英語圏の人達はきっと驚くだろう、25年経ってまだ何もしていなかったのかと。
 死ななければいいという話でも無い。現に自分は生きている。生き延びた者として、この口から今一度言わせて貰おう。

 この程度で済ませる気か、と。