萌える台風8号、そしてLAWS○N流大北□店は幽霊コンビニと化した。



私は、選挙と台風は飯より好きである。
理由など必要ない。その事実が存在すればよい。
飯というものは生きるために仕方なく喰っている、それと同じだ。

その台風が、直撃する。
人として正しい生き方をしてるなら、何かを感じて当然だろう。
ということで、20世紀最後かもしれないこの一大イベントを私は家でおとなしく日本放送協会総合テレビジョンを見ながらすごそうと思っていた。
だが、あいにくこの日はアルバイト。辞めると言って辞表までたたきつけたのに結局九月までやることになりそうなアルバイト。アルはコンピュータの前で叫んだ、「1バイトが8ビットなのは間違ってる!」。

そして嵐はやってくる。

大量の入荷商品がやってくる。
客もやってくる。
台風なんだから家でおとなしくしていればいいのに。

とは言え、いつもの月曜日日付変わって火曜日よりゆとりがあったのは事実である。
うっとぉしい立ち読み客も無く、うずくまって体力回復をはかる余裕すらあった。
そう、3:24までは。

暴風雨接近時、電力会社は危険防止のため送電を一時的に停止することがある。
沖縄電力も例外ではない。

停電。

急激で不連続な電圧効果によって生じる音、それと共に証明が消える。
点灯する非常灯。
鳴り響く警報。
うるさい。

コンビニエンスストアには無停電電源装置が装備されている。
これがあれば、ネットワークは30分間は使用可能だ。
室内気温は26°。冷凍庫もしばらくは保つだろう。
通常の台風停電なら、十数分で復旧するはずである。

15分経過。未だ復旧せず。
吹きすさぶ風の中、最近出来たマンションの明かりが見える。

明かり?

私は手動でなければ空かなくなったガラス扉を押し開け、外に出た。
最大風速40m/sの中、49Kgしかない自身を支えるのは辛い。
弾丸のごとくたたきつけられる水滴の中見たものは、煌々と輝きながら営業を続けるHOTSPAR琉大北口店だった。

事態の異常性を感じ取った私は、とりあえずオーナーに電話する。
オーナーというと聞こえはいいが要するに自営業の店主である。
背後で鳴り響く警報、彼は警報を止めろと言った。
そのとき私は、次の言葉を期待した。
「誤報だ。電気系統の故障だ。本部にはそう伝えろ。」
だがついに、その言葉は聞かれなかった。この店は使徒に侵入されたら終わりである。
オーナーはバッテリーの延命策を指示した。
第2レジの電源はカットされ、MMSと第1レジの維持が最優先された。

薄暗い店内。客が逃げないよう、ドアには「営業中」の貼り紙が為された。
電力会社のパトロールカーが来たため、私は復旧は近いと判断した。

一時間経過。
営業中の貼り紙にもかかわらず、客は誰一人来なかった。

一時間三十分経過。
私は、室内が暗くなっていることに気づいた。
バッテリーの蓄電量が低下していた。
第1レジの電源カット。カウンターでは蝋燭がともされた。
予備電灯が完全に消え、店内は恐怖的とすら言える灯りだけが残った。
この時点で、営業中の貼り紙はもはやなんの説得力も持たなかった。

再びオーナーそして本部に連絡。本部は発電機の手配を決定する。
「西原は間に合わない、浦添に連絡を取れ」
電話口の向こうからそう聞こえた。
冷凍品は絶望とみなされた。

受話器を置いたとき、再び警報が鳴り始めた。
バッテリレベル1,危険領域まであと僅か。この場合の危険領域とは、MMSが停止する可能性のある領域のことである。これが止まると、店の復旧は極めて困難になる。

だが私は警報を無視した。
もはや自分に出来ることなど何もない。ただひたすら、救援を待つだけなのだ。
暗闇に支配された文明は、自力で回復することは出来ない。
滅びるか、異文明に吸収されて生き延びるか。

そして誰も来なかった。

六時十三分、私は撤退を決定する。
店内は明るくなっていた。雲に覆われてなお、ここまで到達する光もまたあるのだ。
それを僅かな拠り所として、私は家路についた。

その後、あの店がどうなったのか、私は知らない。
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