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安全はタダじゃ無い

 
 
 
 先週の土曜日、大阪府熊取町にある京都大学原子炉実験所の見学会に行ってきた。思うところあって、と書きたいところではあるが、実際の所そんなに深い考えがあったわけでは無い。Webサイトを見ていたらたまたま見学会の案内があったので行く事にしたというだけの事だ。
 京大原子炉研というと、一部の人達の間では熊取六人衆というフレーズに象徴される反原発系原子力研究者の拠点というイメージがあるようで、自分も何となくそうだろうなそういう目で見ていたのだが、実際の所どうなのだろう。というところで興味があったのは事実である。
 
 
 さて。見学日当日の4/6、この日は前日から爆弾低気圧の襲来が予報されていて日本全国大荒れの天候であった。正直どうしようかと迷ったが、見学会中止の知らせも無いし、近鉄特急の切符もとってしまったし、午前中で帰るという方針でとりあえず行ってみる事にした。
 途中阪和線の車内で腹部異常により途中下車した為、原子炉研についたときにはもう11時を回っていた。
 
 
 雨天にもかかわらず見学会には大勢の人が来ていて、学生風の人から親子連れ、高校生の団体まで結構な賑わいであった。
 受付を済ませて門を抜けると、施設見学は今人がいっぱいなので展示の方に回ってくれと案内される。人がいっぱいなら仕方が無いし並ぶのも好きでは無いので、そっちの方に行く事にした。
 
 ちょうど、KURAMAという京大が開発したリアルタイム放射線量計測装置の解説が行われていた。福島の事故後、細かくリアルタイムで放射線量を測定する必要に迫られた為、従来はバン1台に積み込んでいた測定機器から不要不急のものを除いて測定器とパソコンのセットだけにまとめてバイクにも乗せられるようにした結果、農道などの狭い場所でも細かく測定できるようになって、安全性に対して有効な対策が取れるようになった、ということらしい。
 現在は福島県内を走る路線バスに積み込んで、バス沿線の放射線量を常時監視する体制を整える取り組みをしているのだそうだ。

参考:http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/kurama/system.html


 ただ放射線を怖がるのでは無く、きちんと測定して科学的に検証して安全なところと恐れるところを分けていかなければならない、という言葉は非常に印象的だった。
 
 同じ部屋にあった研究所の隣にある放射線消毒の会社の展示を見た後、施設見学の方に行ってみる事にした。
 
 廃棄物処理設備に行ってみたら誰もいなかった。案内の紙をよく見たら見学は午後からになっている。原子炉の方に行ってみるとまだ人でいっぱいだという。イノベーションラボラトリの方に行ってくれと言われたので行ってみたが、名前だけでは何の施設なのかさっぱりわからない。パンフレットを見ると、どうやら加速器の実験場らしい。
 
 「無いはずなんですが」と前置きしつつもここが放射線管理区域である旨の説明を受けて、実験室内に入る。
 
 
 
 
 そういえば本物の加速器を見るのは初めてだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 建物を出たらもう12時を回っていた。
 13時になるまで何も無いので、先ほどの展示が行われていた建物に戻って休息をとっていたら、折角人が集まっているのでとペットボトルを使った放射線測定という発表が始まった。γ線がペットボトルの中で光電効果を起こす事で青い光を出す事がわかり、調べてみたら伊藤園の野菜飲料に使われているペットボトルが最も良い結果が得られたのだそうだ。
 実際には中身では無く使われている樹脂が起こす現象なので、この樹脂を使って新型の安価な測定器を日本国内で作れるようになり、海外勢に圧倒されていた市場を巻き返す事が出来た、という話をしていた。

参考:http://www.nirs.go.jp/information/press/2010/05_19_1.shtml
 
 
 13時前になったので、また施設の方に行ってみる事にした。先に廃棄物処理設備の方に行ってみようと思っていたが、雨で散った桜を見ていたら曲がり角を過ぎてしまったので、まあ良いかと先に原子炉の方を見てみる事にした。
 
 原子炉の見学は、さすがに先ほどの施設より制約が多い。1回の見学毎の人数が決まっているし、靴もビニールで覆わないといけない。防護服に着替えるまでの事はさすがになかったが。
 ここの原子炉は研究用なので出力も低く、原子力発電所とは違って未臨界状態で運用しているのだそうだ。主に癌の放射線治療に使っているので、熱を取り出すのが目的の原発とは設備も違ってくるらしい。だからこそ、割と気軽に見学できるのだろう。
 
実験用原子炉
 
 
 
 制御棒や燃料棒が展示してあった。持ってみても良いという事だったので制御棒の方を持ち上げてみた。重い事は重いが、人が持てないほどでも無い。制御棒は普段は電磁石で吊して炉心に出し入れしているので、重すぎても困るのだろう。非常時には電磁石の電源を切って制御棒を炉心に落として全停止させるという仕組みだそうだ。
 
 
 原子炉のすぐ脇に、α線を使ったガン治療の為の設備がある。α線はすぐ崩壊してしまうから原子炉のそばで無いといけないという事なのだろう。しかしα線を治療に使うのかとちょっとびっくり。よほど性質の悪い癌の治療に使うという事か。日本国内だとα線を使った治療設備はここぐらいなのだとか。
 
 他の見学者から、今まで事故は無かったのかという質問が出る。事故があったら今頃ここは廃墟ですという回答。そりゃそうだろうと思いつつも、後でよく考えてみたら過去に事故を起こした原発は福島第一以外は特に廃墟になっているわけでは無い。意識が違うのだろうか。
 
 
 出口で被爆検査を受けた後、廃棄物処理設備の方に行ってみた。既に14時。受付には人がいなくて、裏手の方で質疑応答に入っていた。が、雨音が酷くて話の内容もろくに聞き取れない。雨で電車が止まる可能性もあったので、残念だが引き上げる事にした。
 
 
 
 熊取駅で電車を待つ間にニュースサイトを見ていたら、福島第一で汚染水漏れというニュースが目に入った。またこんな時に…。原子炉の運用そのものよりも、事後処理の問題の方が深刻、という事を考えると、やはり廃棄物処理設備を優先して見学しておくべきだったのかと後悔。
 
 
 
 
 
 
 家に帰ってから、考えを整理してみた。原発事故の記憶が薄れたタイミングを狙ってなのか、最近原発賛成派の巻き返し工作が激しい。中には原発依存率は今でも23%あるから止めたら経済が崩壊するとか、そういう大嘘をまき散らす輩までいる始末だ。
 事実は事実として受け止めなければならないのは当然としても、事実を隠蔽して都合の良い部分だけ取り出したり、果ては情報をねじ曲げて世論を導こうという態度は厳しく糾弾されなければならない。
 
 では今回、自分どう書こうか。原子炉研では、安全管理はちゃんと行われていた。しかしそれには、結構なコストがかかっていたのも事実である。規模の小さな原子炉研でこれなら、もっと大きな所ならそれはいかほどのものになるだろうか。
 「安全はタダじゃ無い」、これを今回の結論にしたいと思う。
 
 
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