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「リトルバスターズ!」に見るリーダー論

 
 
 2007年、リトルバスターズ!が発売された頃、私は某企業でシステム開発のリーダー職に就いていました。多忙の中リトバスをプレイしたとき、この内容はもしかしてリーダー論に通じるものがあるのでは無いかと感じました。
 当時は非常に多忙であったためそれを文章にまとめることは適いませんでしたが、それから6年近くたってアニメ放送も始まった折、当時よりは時間の取れる今、改めてリトルバスターズ!からリーダー論を考えてみる文章を書いてみようと思い至った次第です。
 
 リーダー論と名のつく書籍や文章は世の中に数多くありますが、手に取ってみるとだいたい内容が、程度の差はあれリーダーとは常にかくあるべしといったものが多いように感じます。しかし現実には、時と場合によって求められるリーダー像というのは違ってくるものです。ここではそれを前提に、おおざっぱに3種類にリーダー像に分けた上で、長所短所を論じてみたいと思います。
 
 
 さて。リトルバスターズのリーダーといえば、皆さん誰を想像するでしょうか。圧倒的多数の人は、初代リーダー棗恭介を連想するでしょう。一方で、恭介から後継者指名をされている直枝理樹を想像する人もいるかもしれません。また、女子組を実質引っ張っている来ヶ谷唯湖や、風紀委員長の二木佳奈多、女子寮長のあーちゃん先輩の名を挙げる人もいるでしょう。
 
 今回は、この中から特に、棗恭介・直枝理樹・二木佳奈多の3人を中心に、状況に応じたリーダーとしての適性とあり方を論じてみたいと思います。
 
 
 
1.時代の創設者〜棗恭介
 いわずとしれたリトルバスターズのリーダー、棗恭介です。
 リトルバスターズの創設者であり、妹と2人だけで出発したグループを、有能だがクセのある面子を引き入れることで強力な存在感を持つグループに育て上げてゆきました。ベンチャービジネスの創業になぞらえることも出来ます。
 
 棗恭介の特長は、とにかく強力なリーダーシップです。時として自らを神格化までしてメンバーを心酔させ、組織のために働くこと自体が喜びであるという心理状態を生み出させて、人数の少なさをモチベーションの高さで補うという経営者視点から見た理想型を作り出しています。
 ある種のマインドコントロールでは無いかともとられかねない手法ですが、棗恭介の能力と人徳の高さにメンバーの方が先に心酔してしまっている、という事情があるため、崩壊すること無く関係が続けられていると言えるでしょう。このような手法は誰でも出来るものではありません。ある意味、運です。ただ能力が高いというだけのリーダーが普通の採用活動で入ってきた社員に同じようなことをしようとすれば、逆に人間関係は壊れるでしょう。
 
 では棗恭介の手法から我々が学び取れることは何も無いのか。そうでもありません。その為に、まず棗恭介が率いていた初期リトルバスターズメンバーについて洗い出してみます。
 リトルバスターズの初期メンバーは、棗鈴、直枝理樹、井ノ原真人、宮沢謙吾の4人です。このうち棗鈴は棗恭介の実妹です。まずここに着目してみましょう。鈴はリーダーの妹で女の子という立場にいますが、それを理由に恭介から特別扱いされている事はありません。身内や性別などを理由に差別せず、実力主義で評価する。これが、公平感を生むと同時に、このリーダーなら自分の実力を認めてくれるという期待感の醸成にも繋がります。
 また、不必要に束縛しない、という特徴も読み取れます。宮沢謙吾はリトルバスターズのメンバーであると同時に剣道部の副主将でもあります。そもそも謙吾をリトルバスターズに引き入れた理由が剣術家の家系から謙吾を解放するということであったことを考えると、恭介からしたらまだ剣道を続けていることに面白くないものを感じても不思議ではありません。ですがそこは謙吾の自由意志に任せて一切口を出さず、リトルバスターズの活動に関わる部分でのみ参加を要求する。この姿勢を徹底しています。
 自らの存在が大きいからこそ、支配を感じさせずあくまでグループの仲間でありその中でのリーダーが自分でる事を、自然に認知させる、ということが大切になってきます。上に挙げたのは、その為に必要な事例の一つと言えるでしょう。
 
 では、棗恭介にリーダーとしての弱点は無いのか。もちろんあります。長所であるはずのリーダーシップ、それが逆に裏目に出ることがあるのです。
 
 まずは、事業の拡大とそれに伴う組織の成長に、如何に対応するか、という点です。リトルバスターズの初期メンバーは5人だけで、これだけの少人数であれば恭介1人で全てを判断し指揮することが十分に可能ですし、またその方が効率的です。シンプルな指揮系統と身軽な組織形態により、実行速度も大変に速くなります。
 
 ですが、やることが増えれば人を増やさなければなりませんし、人が増えれば組織のあり方も変えなければなりません。規模が拡大するとリーダーの目が届かなくなり、また全てを決済しきれなくなる為です。
 これを解決するには、トップの下にサブリーダーを置いて、ある程度の独立性を持った複数の組織に分割する、というやり方が一般的です。また、組織分割では無く目的に応じてサブリーダーを置く、という手法もあります。
 リトルバスターズ!では、極めて特殊な事情が背景にあるとはいえ、恭介の指示で理樹と鈴がサブリーダーとして務まるよう経験を積んでいく、という話が物語の主軸になっています。一方で来ヶ谷唯湖という大変有能な人材がわざわざ入ってきてくれたので、暫定的に恭介の元この3人のサブリーダーが新生リトルバスターズを動かしていく、という形になっていきます。
 
 ですが、組織が成長しても尚以前と同じ手法が通用すると考えていると、とんでもないしっぺ返しを食います。特に間違えやすいのが、スピード感です。組織が大きくなれば動きが鈍くなるのは当然であり、またそれは必ずしも非効率に繋がるというわけでも無いのですが、リーダーが昔のスピード感にこだわって直接指揮に乗り出す、なんてことをやり出すと、現場が崩壊しかねません。
 リトルバスターズでは、理樹と鈴の成長の遅さに焦った恭介が、短時間で結果を出そうと焦るあまり独断専行で鈴をメンバー達から隔離してしまうという暴挙に出てしまいます。結果、理樹は恭介から離反し、鈴は使い物になら無くなるという悲惨な結果を生んでしまいました。
 この事件は、上記のように昔のやり方に固執した恭介の失態という側面がある一方で、もう一つの問題をも示唆しています。独断専行と書きましたがまさにその通りで、これを実行する過程で恭介は部下の誰にも相談せず、謙吾のようにやり方に疑問を持つ部下の意見も聞き入れずに事を進めてしまっています。また、当事者である理樹と鈴に、理由や目的を一切説明せず、命令なんだからやれという横柄な態度をとっています。
 独断専行はスピーディな決定に繋がるが、その一方で部下への情報伝達が不十分だと不信感を招く原因ともなるのです。組織が小規模で以心伝心が通用する頃であればそれでも何とかなりますが、組織が大きくなると明文化した指令が必要になってきます。これがうまく行かないと、上述の理樹や謙吾のように部下の離反や反乱を招く結果にもなってしまうのです。
 
 
 では。このような弱点や失態のある棗恭介は、リーダーとして相応しく無いのか。それは全く別の話です。むしろ組織立ち上げ初期の急成長が要求される段階では、このタイプのリーダーが最も相応しいといえます。状況の変化に応じて正しい判断をし、時には新しい時代に合った後継者にすんなりと道を譲る、そういった判断が出来れば名リーダーと言えるでしょう。
 ただそこでも問題があって、そのカリスマ性故に逆にやめたくてもやめさせて貰えない、という事態がしばしば生じるようです。自分自身だけで無く、部下にも状況変化への対応というものを教育しておく必要があるのかもしれません。
 
 
 
2.人望で時代を動かす〜直枝理樹
 棗恭介の手によって厳しいリーダー訓練を受ける、実質的に棗恭介の後継者に位置する人物です。物語では当初棗恭介が、自分と同じ事が出来るようにという方針で育てた結果失敗し、結局自力で、自分の出来る範疇をつかみ取って成長を成し遂げました。
 
 では彼は、グループ創設者である棗恭介とどう違ったのか。強力なリーダーシップでメンバーから外部の人間まで問答無用で引っ張っていく棗恭介に対し、直枝理樹は優れた人格で人を引き寄せるタイプです。とにかく人柄が良く、多少の細かいことは置いておいて理樹に人が集まってくる「人たらし」な気質です。
 
・非力だが助けて貰える
 
 ここが非常に重要です。
 部下から尊敬や畏怖の念といったものはあまり受けませんが、逆にリーダーが難題を抱えると何を指示するでも無く勝手に集まってきて問題解決の方向に動き出す、といったことがしばしば起こります。また、指示を出す場合も居丈高な命令では無く、あくまでお願いという形から入っていく、調整型の人間でもあります。
 また、理樹は冷静沈着に事態を分析する理論派でもあります。行動には基本裏付けがある為、言動に於いて信頼を得やすく、部下も納得して動きやすい側面もあります。また、相手の持つ能力とその有用性・活用法を分析する術も持ち合わせており、部下の能力を最大限発揮する方向へ持っていけると共に、部下自身がそれによって自信を付け、リーダーへの信頼感を増すという好循環を生み出すことが出来ます。ナルコレプシーという病気持ちであり、一般の人より少ない量しか働けない非力な存在でありながら、人柄と論理性を武器に人を集めまとめる存在になっているのが直枝理樹の特徴です。
 
 人当たりが良い為新しく入ったメンバーとも折り合いがよく、また人材獲得でも威力を発揮します。実際リトルバスターズ新規メンバー5人のうち、3人(※アニメ版では4人)は理樹が連れてきたメンバーです。
 組織が急成長過程に入ると人手が大量に必要になり、新規メンバーの獲得と教育、従来メンバーとの利害調整といったヒューマンスキルを要求される場面が非常に多くなります。理樹のようなリーダーはこのような局面にはうってつけと言えるでしょう。
 
 
 しかし、一般的にいう「おとなしい」人柄である為、リーダーとして認知されるまでに時間がかかる、という弱点も抱えています。棗恭介が失態が原因で引き篭もり状態になったとき、理樹がリーダー代行を勤めようとしますが、当初は誰も言うことを聞かないという状態であり、信頼関係を再構築するのに苦労する様が描かれています。
 
 また逆に、リーダーとして認知された後の苦労も並大抵ではありません。
 とにかく人に好かれるということはもちろん長所なのですが、同時に独占欲や恋愛の引き金にもなりかねない諸刃の剣でもあります。部下が、リーダーのいうことはちゃんとよくきくが、部下同士が実は仲が良くなくてリーダーの目の届かないところで歓心を買う為の足の引っ張り合いや、果ては潰し合いなどということが起きていることもまれではありません。部下同士の争いとは少し違いますが、直枝理樹の保護権を巡って旧リーダーの棗恭介と幹部格メンバーの宮沢謙吾が争っている描写が作中にもあります。
 また、異性の部下に対しては、仕事のみならずプライベートに於ける接し方をも考慮しなければなりません。部下と恋愛関係にまで踏み込んだ上でモチベーションを上げさせ仕事の能率を上げさせるという手法もあるとは聞きますが、倫理上問題がありそういう事はやるべきでは無いと私は考えます。かといって部下からの恋愛感情を無視した状態にしておくと、能美クドリャフカのような本来国際レベルで通用するはずの人材がメンタルの壁にぶつかってしまったり、三枝葉留佳のように発狂して凶行に走ったりといった目も当てられない事態になることすらあり得ます。
 アニメ版リトルバスターズ!のように恋愛に興味が無い体裁を装いつつ適度にガス抜きしてモチベーションを高く保たせ続けるという方法が、卑怯に見えるかもしれませんが、後に問題が発生する可能性は低くなると考えられます。
 
 また、カリスマ性によって率いられた組織の問題、というものも存在します。棗恭介のように強力なリーダーシップを発揮しているわけでは無いのだから直枝理樹にはカリスマ性は無いと勘違いしがちですが、理樹の人柄に惹かれ、理樹の為に働きたいという意志を持ってメンバーが集まっている以上、ここにはカリスマ性が存在するといわざるを得ません。組織維持をリーダーのカリスマに大きく依拠している為、リーダー自らが引っ張ってきた人材では何らの問題は無いのですが、その部下が引っ張ってきた新しい人材に対しては、リーダーの指揮権が十分浸透し及ぶかという懸念が発生します。
 リトルバスターズメンバーですと、原作の西園美魚が、理樹の勧誘では無く来ヶ谷唯湖の勧誘によって加入しており、これに近い形となっています。(※来ヶ谷自身も、理樹の勧誘という体裁をとってはいるが、実質的には自ら志願してリトルバスターズに加入している。)
 作中では、西園美魚よりもむしろ来ヶ谷唯湖がリーダーに従わない困ったちゃんとして描かれていますが、美魚の方はこれといって目立つような反抗的態度をとるようには見えません。ただ、目立つような、というところがキーポイントであり、目立たないところで何かをやっているのでは無いか、という疑念を抱かせる言動がありますし、監視とまでは行かなくても気を配っておくぐらいのことはしておくべきでしょう。実は反抗的態度などでは無く深刻な悩みや業績不振に苦しんでいる、というケースの方が実は多いですし、そういったマイナス要素を早期解決する道にも繋がります。
 
 なお、西園美魚はゲーム中では、特に反抗を企てていたわけでは無く、むしろイマジナリーフレンドと入れ替わって自分は消えようなどというとんでもない願望を実現しようとしていたところでした。しかし、この問題を解決したことによって、理樹は美魚にとって最も信頼出来る人間という位置につくことが出来ました。
 一方で、理樹の方が折角築いた美魚との信頼関係をこの後十分に生かすことが出来なかった、というところは、考えさせられる話の作りとなっています。
 
 
 前述のように、組織が安定成長期に入り、大量の人材採用並びに人事管理をする必要がある段階では、対人スキルの高い理樹タイプのリーダーが適切となってきます。何も言わなくてもやって貰えるからとただ部下任せにするのでは無く、部下の能力を見極め適切にアドバイスすることでより大きなレベルアップに導いていける存在になれれば、理想型と言えるでしょう。
 
 
3.法治と人知で時代を確立する〜二木佳奈多
 「リトルバスターズ!」をプレイしていない人にはわからないでしょうから、簡単に説明を。二木佳奈多は、リトルバスターズのメンバーではありません。むしろ、学園内の非合法団体であるリトルバスターズを目の敵にする、風紀委員会の委員長です。但し厄介なことに、彼女の最愛の妹がリトルバスターズのメンバーとして入っているという事情があります。
 そんな二木佳奈多は、周りからは「氷の委員長」と恐れられる存在であり、一方で自らが率いる風紀委員会では絶対の権力基盤を築いています。しかもそれに飽き足らず、剣道部に副部長として在籍していて、幽霊部員と化している代わりに事務処理の一切を請け負っており、さらにその関係で上部団体の運動部会に大変な影響力を築いています。また、1年生当初から、この学校でかなり大きな実権を持つ「寮会」の仕事に参加しており、現在の寮長(あーちゃん先輩)とも非常に親しく次期寮長を打診されるほどです。この学校の生徒会系組織の半数から3分の2までを押さえているのでは無いか、という試算もあるくらいです。
 
 そのような、いわばサラブレッドのごときリーダーとも言える二木佳奈多は、どんなタイプの人間なのか。人間的な特徴として作中に出てくるのは、規律重視、質実剛健、真面目で世間知らず、といったものが出てきています。佳奈多が主活動領域とする風紀委員会もこの風潮に習い、規律規範の徹底遵守と強権的かつ監視社会寸前な取り締まり活動、といった明らかに弊害を含んでいる活動内容となっています。
 ですが一方で、佳奈多自身は堅物ではあるが融通が利かないというほどでも無く、杓子定規に行動する部下の暴走を暫し叱責する姿も見受けられます。単なる風紀委員長職一つに留まらず、複数の組織の代表としてさらに多くの別の組織と折衝する経験を積み重ねてきたことから、妥協しないことで問題が解決しなければそれこそ意味が無い、という考えを持っているようです。
 
 
 このように、組織運営に於いて年齢相応を遙かに上回るエキスパートとなっている二木佳奈多ですが、部下に対して接する態度はどうでしょうか。実はここに、既に挙げた二人のリーダー、棗恭介と直枝理樹との大きな違いがあります。
 
 二木佳奈多は、仕事を進める上でもちろん部下や関係者と頻繁に話をし、折衝し調整を行ないます。作中には描写はありませんが、時には腹を割って話し合うこともあるのでしょう。そういう意味ではコミュニケーション能力は大変に高いと言えます。が、一方で、それらの人々ははあくまで「仕事の関係者」として割り切っている節があり、プライベートでの関係はむしろ徹底的に排している傾向すらあります。
 作中で多少、家庭の問題でそうせざるをえないという理由が書かれてはいるのですが、実際にはこれだけでは無く、必要以上の人間関係への深入りをしない事で、自らの足かせとなるものを予め回避しておく、という思惑も見て取れます。
 また、現実問題として、大規模な組織となるとどうしても派閥やムラといったものが形成されがちであり、時としてそれらの内部集団が組織全体の利害に反した行動をとることすらあり得ます。不必要な人間関係を排していれば、このような集団に関わることも無いはずであり、自らが対処の必要性に迫られたときに情実を排して公正且つルールに則った処分を下すことが出来ます。小規模組織では必須スキルであったはずの人間関係が、大組織になると逆に足かせになってしまうこともあるのです。
 
 
 余談ですが、一介の学生に過ぎない二木佳奈多がここまでの認識とスキルを身につけてしまっているのには、実はちゃんと理由があります。
 二木佳奈多は、旧地主から宗教産業で身を起こした地元の名士「三枝家」の跡取りであり、一般的な感覚からすれば「三枝家の御令嬢」ということになります。
 (実際は到底そんな扱いでは無かったのですが、リーダー論とは直接は関係してこないのでここでは割愛します。詳しくお知りになりたい方はゲームをプレイするかアニメEX佳奈多編をご覧になって下さい。)
 
 上記のような経緯から、佳奈多は基礎的な礼儀作法に加え、小規模同族経営とはいえ会社組織並びにそれに関連する地域社会のあり方を幼少の頃から常に観察してきた人間です。作中では、中学生の頃に次期当主に正式決定した途端、旧勢力とも言える叔父達を排除して経営改革に乗り出そうとし、結果潰されるという経験を既にしています。故に、組織経営のスキルは並みの高校生どころでは無い遥かに高いスキルを持っていると言えます。
 
 では、そんな元から育ちのいい二木佳奈多の真似など、一般人は出来るわけが無い、で結論が出てしまうのか。いいえ、学べるところは十分にあります。
 二木佳奈多の特徴として、知識欲・学習欲が非常に旺盛というのがあります。1日2時間睡眠という設定がこれがどこまで本当かは疑問ですが、ルームメイトの能美クドリャフカがロシア系(※ロシア系の血を引くというだけで実際は日本語の方が堪能)というだけでロシア語をほぼ読めるだけの勉強をこなしてしまう、そういう人です。
 ここでいいたいのは、リーダーはロシア語を勉強しなさいという意味では無く、知識情報技能といったものは学生の時にだけ学ぶものでは無く、一生涯摂取し続けるものであり、それをやっていれば、生まれだ学歴だ、というのはだんだん関係なくなってくる、ということです。佳奈多に追いつくかどうかは脇に置いておくとしても、高いスキルはリーダーとして持っておいて損はないもののはずです。
 
 
 さて。これまでの3人の中で最も毛並みがよく、かつ能力も経験もありそうに見える二木佳奈多ですが、弱点はあるのでしょうか。もちろんあります。
 
 必要最小限の対人関係しか持たないことは、上述のように癒着や情実を防ぐ上で効果があり、特に人数の多い大組織ではこういった方策が重要な意味を持ってきます。ただ一方で、直属の部下にまで終始ビジネスライクな態度であったり単なるコマとしてしか扱わないようであると、部下の側もリーダーに対してシビアな評価を下すようになる為、些細なことをきっかけに一斉に不信感が爆発する結果も生み出しかねません。作中では、二木佳奈多が風紀委員長を実質的に解任される事件が発生しています。
 
 また、大組織のリーダーであるにもかかわらず、なまじスキルが高いが故に現場時代の感覚を捨て去ることが出来ず、下に任せるべき事をリーダー自ら単独で行ってしまう、ということがままあります。この手のことをやる人の言い訳として圧倒的に多いのが、自分でやった方が効率が良い、という弁であり、二木佳奈多も同じようなことを口にしています。が、その言葉は部下の無能さをなじる言葉であり且つ部下の仕事ぶりを信用していないという意味である事に気がつかなければなりません。ただでさえそのような行為は自身の負担増になる上に、部下からも信頼されていないのかという疑念を呼び起こすことに繋がりません。
 
 リーダー職としての限界を感じたら潔く一線を引く覚悟も必要です。そもそも大組織のリーダーともなると、自分に全く瑕疵が無くとも上や周りや部下が起こした不祥事によっていとも簡単に首をすげ替えられてしまうのが常識です。そうでなくともそれほど大きな組織なら何年かおきに異動があるはずですし、どのみち同じ地位に留まり続けることなど出来はしないのです。
 いずれ離れる身であるという意識があれば、有能な人物ならそういった事態に備えて常に後継者の育成にも力を注いでおくことでしょう。有能な腹心を後継者に据えることが出来れば、その後別のところで再起を図ることも可能になります。二木佳奈多がここまでのことをしていたかという描写はありませんが、少なくとも風紀委員会では非常にスムーズに引き継ぎが行われている事から、風紀委員会ではきちんと後継者育成を行っていたと考えられます。
 
 
 
 学校を含む公的組織であったり名の知れる大組織となると、外部の人間や組織との利害調整や衝突も処理していくことは避けて通ることは出来ません。そのような段階では、ただ単に人を引っ張るというだけでは無く組織を一つの単位としてみることが出来、体系的な組織論に基づいた動かし方を心得た人間が必要となってきます。
 
 ただこの手のタイプの人間は、組織に縛られない天才肌の人間の扱い方がわからず、戸惑ったりあまつさえ失礼な態度をとることがままあります。
 佳奈多が来ヶ谷唯湖を強引に風紀委員会に引き込もうとしたり、(本来佳奈多より能力の高い)三枝葉留佳を異常なまでに敵視している(作中では別の理由があることになっているが)のには、こうした組織型リーダー特有の弱点が現れてしまった結果かも知れません。
 
 
 
4.この他のメンバーについて
 リトルバスターズ!にはこの3人以外にも登場人物がおり、中には寮長とかグループリーダーのようなことをやっている人も居ます。それらの人を何故上のような事例としてあげなかったのか。この場で簡単に解説しておきましょう。
 
 まず、あーちゃん先輩。女子寮長です。ですが、実際には雑務ばかりをしている描写しか無く、ここでテーマにしているリーダーとしての姿はあまり見えてきません。実際、リーダーとはいっても事務作業に忙殺されて本来果たすべきリーダとしての仕事が出来ないという人も世の中には大勢居ることでしょう。あーちゃん先輩は寮会という一大組織の長ですが、ただの事務責任者に留まっているように感じます。クドわふたーでは寮長職を引いた後、元寮長としてあるまじき規律違反を煽るような言動をしており、リーダーの資質という意味でもかなり厳しいといわざるを得ません。
 
 
 次に、リトルバスターズ女子組のリーダー格とも言える来ヶ谷唯湖です。まず、事例として挙げなかった理由は、タイプとして棗恭介と同じであり同じタイプの人間を二人列挙するのは体裁がつかないということで、よりリーダーとしての実績のある棗恭介の方を事例としてあげた次第です。
 またこれ以上に、唯湖は恭介以上に自由人気質であり、本音としてはリーダーなどやりたくないと思ってるタイプの人なのでは無いか、というのもあります。他に適任者も居ないし、前向きな提案はするし言ったことに責任は持つが、あまり何でもかんでも面倒は見たくない、というところでしょうか。
 そういった意味では、実は女子リーダー候補として美魚に期待しており、それで(ゲーム版では)わざわざ美魚を引っ張ってきたということなのかもしれません。
 
 
 その美魚ですが、コミュ障というほどではありませんが、対人経験がこれまであまりなかった為現在修行中というステータスであり、リーダーが務まるかどうかは未知数といったところです。
 ですが、以外と気配りがで切る一面や、冷静に事態を分析できる能力を持ち合わせていることを考えると、理樹と同じようなタイプのリーダーになれる素質を持っているのかもしれません。
 
 
 
5.総括
 リトルバスターズ!という架空の作品を題材に、その中に出てくる3つの異なるタイプのリーダー像を示してみました。
 「リトルバスターズ」という実力はあるがあくまで私的任意学生団体な組織の創設者。
 その後継者。
 学内の正式治安機関である風紀委員会の長。
 タイプが異なってくるのは当然というか、むしろそういうふうに作ってあるといった方がいいのかもしれません。
 しかし、これらの設定が決して現実離れしておらず、むしろ大学院の授業でやるような形式論・理想論・机上の空論的なリーダー像よりも現実に即している、というところに大きな意義があると考えています。
 
 無論、この3つの型以外のリーダーというのもあり得るでしょう。一方、現実世界でも、この類型に当てはまるリーダーも結構居るのでは無いかと思います。
 これからリーダーを目指さないといけない、又は既にリーダーという職務を任されているが、実際問題指針がよくわからない、人に聞いた話だと到底つとまりそうに無い、どうにも自分のやり方がうまく行かない。そういった人達にとって、この文書が自分なりのリーダー像を掴む為の一助になればと思います。そして、リトルバスターズ!というゲームを是非プレイしてみてください、という言葉を以て、最後の締めとさせていただきます。
 
 
 
 
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